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金遣いの荒さを言い訳をするブログ

ヘドウィグアンドアングリーインチを観てきた

2019/9/1、東京・EX THEATER ROPPNGIにて「ヘドウィグアンドアングリーインチ」を観劇してきました。いろいろと感想を綴っていきます。

 

※この記事はこんな人が書いてます。

  • 衛星映画劇場で何度か「ヘドウィグ~」を見て好きになった。
  • 2014年BWにてアンドリュー・ラネルズ(以下AR)版を観た。今回の記事ではこれを比較対象としています。
  • 浦井健治さんは名前だけを知っていた。アヴちゃんさんは今回初めて知った。
  • 今回ヘドウィグファンとして観に行った。

 

Long story short、手短に言うと「思うところもあるが新たな発見もあって、観に行ってよかった」です。良いなと思ったところから書いていきます。

 

1 バンドの生演奏

 上演される劇場がライブを主とする会場であることやチケット代の他に徴収されるドリンク代、BW版の前知識から今回のVer.がBW版に近い、ライブを模したものであることは予想出来ていました。

 

 実際、今回の演出や舞台セットはBW版に近いものでした。

アングリーインチのメンバーは清春のサポートメンバーなど実力者が担当し、楽器の生演奏は二階の後方席でも腹に響く、迫力あるゴリゴリのロックサウンドでした。音響の面からも今回の会場選びは正解だったと思います。

 

2 開演前のサービスが太っ腹すぎる

 なんと今回の「ヘドウィグ」は開演前に限り、舞台セットの写真撮影とヘドウィグ登場前のバンドセッションの撮影が許可されています。神かよ。

ポップで可愛い舞台セットです。

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中央

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上手 ヘドウィグのかつら

 3 アヴちゃんの存在感

 正直あまり期待していませんでした。本業歌手が上手く演じられると思っていなかったし、この「ヘドウィグ~」では主役のヘドウィグとセットでアヴちゃん演じるイツハクが大きく取り上げられているのは集客目当てだと思っていました。

 

 結果的には良かったです。

 

 最初にアヴちゃんが登場した時、まず足の細さに驚きました。衣装もBW版のイツハクはビッグシルエットだったのに対し、今回はスキニーでよく似合っていました。ラストで登場するドラァグクイーンのドレスも足を目立たせるデザインだったので良かったです。

 イツハクはヘドウィグのサポート役なのでステージの暗いところにいて、出番が来たら歌い、ヘドウィグのお世話をして…という役回りですが暗所でひっそりとしていても忘れられない存在感がありました。

 

 また、宣伝の様子からこれまでの演出を変更し、イツハクに重大な役目が与えるのかと注目しましたが、映画版やBW版と変わらなかったように思います。

ただ、ヘドウィグにステージドリンクを差し出す手つきや傷ついたヘドウィグの代りに歌うシーンからはヘドウィグへの献身ぶりが見えました。ヘドウィグとイツハクとのダンスバトルシーン?では二人の対称性が表現されていました。これまで考えてこなかったイツハクの必要性について考えるきっかけになりました。

 

4 浦井ヘドウィグの新しさ

 浦井ヘドウィグがこれまでのヘドウィグと違う点は「全体的に疲れている点」だと思います。

 ヘドウィグは下ネタや大げさな言動で客席を笑わせる一方で、これまでの半生に疲れ続く「カタワレ探し」に不安を抱いているキャラクターです。

 まだ三公演目ということや観客との連携の悪さから、冗談や観客をからかうアドリブを入れられないのでしょうか。まだ台本通りこなしている感じがしました。シラケる客席に対して浦井ヘドウィグの明るさは痛々しさを感じます(客席はスキャンダルでヘドウィグを知って観に来たミーハーが多い設定だからそれでもいいのかもしれない)。

 

 曲や台詞の途中で浦井ヘドウィグはどうしようもないくらい鬱屈とした表情を見せ、言葉に詰まり、泣いて、怒りを爆発させます。愛した人々に裏切られ続け、心の痛みを抱えながらも立ち止まることもできず進みはするけど自分自身どうすればいいのか分からなくなったヘドウィグです。この演技が前述の痛々しさと相まってヘドウィグの悲しみを強調しているように感じました。

 

 歌も安定していて良かったです。今までミュージカルへの出演が多いイメージだったのでロックな歌い方もできるんだなと驚きました。感動のあまりステージの床を本当に舐めたり、悲しき中年・ヘドウィグと若いキラキラアイドル・トミーの演じ分けだったり、できることの幅が広かったです。

 

 

 

 

 次に好きではなかった点を書いていきます。

1 ヘドウィグのかつら

 ヘドヘッドの後ろ髪が貧相で浦井さんの輪郭の丸さが際立つ。

「Wig in a Box」などかつらのバリエーションの少なさ。

全体的にかつらの毛量が少ない。

2 ヘドウィグの衣装

 登場~渡米まで着る第1衣装がデニム調、網タイツという点ではBW版と同じですが、2019日本版では袖が肘までの赤いパフスリーブ、カラフルなグリッターをまぶしたスカート、スニーカーと可愛い仕様になっています。衣装の年齢度は低めです。(でもパンチラは多かった)

 上に重心が来る衣装かつスニーカーの影響で足が短く見えます。ヒールだと浮き出る足の筋肉が綺麗だったので残念です。

 「Wig in a Box」の毛束ドレスもカットされました。

3 イツハクの歌

 イツハクはヘドウィグより歌が上手く、そのせいでつらく当たられるという設定があります。

 アヴちゃんの声の低さとバンドの音量でイツハクの歌が聞き取りづらく、その設定を忘れそうになります。「Midnight Radio」では顕著でした。

4 バンドとの一体感のなさ

 ヘドウィグとアングリーインチたちとの連携が悪く、よそよそしさを感じました。公演を重ねるにつれて改善すると信じます。

5 観客との距離

 BW版や映画を見て前知識を持っている人ならこの作品がライブ形式だとを知っています。女王蜂のファンの人もロックライブの盛り上がり方を知っているでしょう。

が、浦井さん目当てで来た人やミュージカル作品を観に来た人はいきなり騒ぐことに慣れていないように感じました。アヴちゃんが前説で「盛り上がって応援してね~立っても全然いいから」と言ってくれても、ヘドウィグが客席を弄っても、日本の観劇マナーをしっかり守ってきた人たちにはハードルが高かったと思います。

二階席も距離が遠く、なかなかノリきれないところがあります。

 

 今回の演出では舞台が「1991年のニューヨーク」に設定されています。これはパンフレットで設定の意図が書かれています。

 ただ、BW版では本当にBWにあるベラスコシアターで上演され、「美しいベラスコシアターにようこそ」という台詞で観客を歓迎したり、「Tear Me Down」で歌詞の一部を「Hello Missouri」から「New Jersey」に変更したりと、現実にヘドウィグのライブを来たんだという臨場感がありました。これも観客との距離が遠くなった一因だと思います。

 

 この点も公演が進むにつれてリピーターや覚悟をしてきた人たちが盛り上げてくれると信じます。

(いっそヘドウィグ熱烈ファン隔離スタンドエリアを作ってくれればよかった。ドレスコードはヘドヘッドで)

 

6 「Sugar Daddy」がVer.違い

 Off-Broad Way版と映画版では「Sugar Daddy」はカントリーミュージックでした。2014年のBWでのリバイバル版でロックアレンジがされました。これがとてもかっこいい。

www.youtube.com

 

 今回もロックVer.で披露されると思いきやカントリーVer.でした。

 BW版では下手のセットにヘドウィグがよじ登る、マイクを振り回す、客席に降りて観客にカーウォッシュ(椅子の手すりに乗って観客の頭の上で腰を振る)などロックな演出が多かったのですが、全てカット

 全体的にBW版に近いのになぜ「Sugar Daddy」だけ以前のVer.を継続するのか分かりません。一番残念なことでした。

 

 

最後に

 「ヘドウィグアンドアングリーインチ」は多感な少女時代の私に傷を付け、人生観に影響を与えた、とても大好きな作品です。

 

 「ヘドウィグ」は男でもなく女でもない、帰るべき故郷がなくなり東ドイツ人でもアメリカ人でもない、二つの概念で分けることのできない、素の人間です。性別、国籍、信条問わず、全ての人間がヘドウィグの生き方に傷つけられ、自身の人生に戸惑うようになります。これが私が「ヘドウィグ」を愛する一番の理由です。

 

 いろいろな感想を綴りましたが、この2019年に日本で上演され、それを観ることができた幸運に感謝します。

 

 この作品をより多くの人に観て、好きになってもらいたいです。